設計した基板を製造したい
micro:bitをたまに使うのですが、下のようなブレッドボードの変換基板をつくってみました。ブレッドボードに差しつつ、ワニ口ケーブルが使えるようにしたものです。今回の記事は、この基板を製造メーカへ注文したときにやったことなどのメモになります。


見積もり内容を比較
国内と海外で、下の2社の基板製作メーカから見積もりをとってみました。
プリント基板試作製造のunicraft
https://unicraft-jp.com/
国内メーカーの中で最安ではないかと思います。有名どころのP板ドットコムと比較しても半額以下でした。見積も簡単にできるシステムが整っているので、発注もスムーズに行えると思います。
Fusion PCB
https://www.seeedstudio.com/fusion_pcb.html
「Fusion PCB」中国深センにあるPCB製造メーカー。最低5枚以上の製造で、4層基板まで製造ができます。とにかく激安。
見積時に設定した製造条件は以下のとおりです。
製造データ:ガーバーデータを用意
基板種類:リジッド基板 FR-4
基板サイズ(縦、横):69 * 41
層数:両目(2層)
発注枚数:5枚
基板厚さ:1.6mm
銅箔厚さ:35um(1oz)
最小パターン幅/間隔:0.125mm
最小穴径:0.25mm
シルク印刷:印刷する
シルク印刷色:白色
レジスト:両面
レジスト色:青色
基板形:長方形
内部切り抜き:なし
長孔(長穴):なし
Vカット:なし
ランド表面処理:水溶性プリフラックス
ULマーク:印字しない
導通テスト:あり
リードタイム:通常納期
部品実装:部品実装サービスを利用しない(メタルマスクを購入する)
メタルマスクサイズ:300*400mm(中国製/リードタイム:12営業日以内)
SMD実装面:片面
メタルマスク製造データ:メタルマスクデータを提供する
見積り結果
unicraft
プリント基板製造費:¥15,302
メタルマスク製造費:¥16,000
合計額:¥31,302 (税別)
リードタイム
プリント基板製造費:4~8営業日
メタルマスク製造費:12営業日以内
Fusion PCB
プリント基板製造費:USD$84.00
メタルマスク製造費:USD$8.90
合計額:USD$92.90(¥9,730 税別)
リードタイム
プリント基板製造費:4~5営業日
メタルマスク製造費:4~5営業日
中国おそるべし、現地の工場の人々は、これで、ご飯たべれているのでしょうか。今回は、とにかく価格面でFusion PCBにきめました。
ワークサイズ
基板製造ではワークサイズが決まっていて、ワークサイズ当たりの費用が製造価格になります。基板単価を安く抑えるには、以下を考慮して製作したほうがよいですね。
・ワークサイズに収まるサイズの基板はその大小にかかわらず同じ価格になる。
・ワークサイズの中に小さい基板を並べて配置し製造すれば基板単価を安く抑えることが出来る
・ワークサイズの中に基板を複数配置することを「面付け」または「パネライズ」という。
・面付した基板を簡単に切り離すことが出来るように、面付け基板の外形に沿ってV字の溝を入れることをVカットという。
・面付けやVカットのルールは基板製作会社ごとに異なる。
そんな訳で、Fusion PCBの設計ルールを下にリンクで貼っておきます。
Fusion PCB 標準規格書 URL : https://www.fusionpcb.jp/blog/?p=1016
Fusion PCB 技術サポート URL : https://www.fusionpcb.jp/blog/?p=1009
面付けして、大量生産
基板の寸法は、FR-4基板なら、10mm*10mm から 500mm*500mm まで作成できます。最大の500mm*500mmで面付けを行いワークサイズの中に基板を並べて配置し製造すると単価を下げられますね。
基板面付け用フリーソフトウェア「GerberPanelizer」があるので、これを利用して面付けを行う。以下、面付けの方法とkicadでのガーバーデータなどの出力方法をまとめています。
面付け方法
GerberPanelizerの入手 / インストール
① 以下のGitHubのGerberToolsのページから入手する。
http://github.com/ThisIsNotRocketScience/GerberTools/releases
② GerberTools_20xx_xx_xx.zip を解凍するとGerberTools_20xx_xx_xxフォルダが生成されるので適当な場所に移動・保存する。
③ GerberTools_20xx_xx_xxフォルダ配下にPanelizerフォルダがあり,この中に目的のツールGerberPanelizer.exeが収容されている。

単体基板のガーバーデータの準備
① KiCadを起動し作成したプロジェクトを開く。
② レイアウトエディタを起動する。
③ 以下の方法で製造データとドリルデータを出力する。
面付け基板レイアウトの基板製造データを出力する。
基板製造データはガーバーデータとも呼ばれ発注先が指定するデータフォーマットに合わせなければならない。配線パターンなどの描画データと穴あけドリルデータの2つを出力する。
製造データファイルの出力
① ショートカットBを入力しベタ領域を再生成する。
➁ PcbNewの上ツールバー 「「プロット( HGPL…)」をクリックする。「製造ファイル
出力」ダイアログが開く。

③ 出力フォーマット,「ガーバー」を選択する。
④ 含まれるレイヤー欄,次のレイヤーを選択する。
F.Cu ,B.Cu
F.SilkS ,B.SilkS
F.Mask ,B.Mask
Eco2.User
※他のレイヤーは,すべて選択解除する。
⑤ 全般オプション欄を次のように選択する。
フットプリントのリファレンスをプロット
基板外形レイヤーのデータを他のレイヤーから除外
シルクからパッドを除外
ビアのティンティングを禁止 (貫通ビアにはんだレジストをかけない)
原点に補助座標を使用
プロットの前にゾーンの塗りつぶしをチェック
※これ以外は選択を解除する
⑥ ガーバーオプション
Protelの拡張子を使用
※これ以外は選択を解除する
⑦ 座標フォーマット
4.6 単位mm
⑧ 表示
全てをチェックする
⑨ [製造ファイル出力]をクリックます。メッセージ欄にファイル生成状況が表示される。
ドリルデータの生成
① 「製造ファイル出力」ダイアログ(図11-1)の[ドリルファイルの生成]をクリックする。「ドリルファイルの生成」ダイアログが開く。

➁ ドリルファイルフォーマット
Exellonを選択
PTHとNPTH穴データを一つのファイルにマージにチェックを入れる
routeコマンドを使用(推奨)
③ マップファイルフォーマット
PostScriptを選択
④ ドリル原点
補助座標を選択
⑤ ドリル単位
mm
⑥ ゼロの扱い
先頭ゼロ省略(リーディングゼロサプレス)
⑦ データ出力。[ドリルファイル]をクリックする。(メッセージ欄にファイル生成状況が表示される)
基板製造データの確認
KiCad付属のガーバーデータ表示ツールGerbVeiewを用いて生成した基板製造データを表示し確認する。
① KiCadマネージャから 「GerbView」を起動する。
➁ GerbView上ツールバー 「現在のレイヤーに新規のガーバーファイルを…」を
クリックする。
拡張子 .g?? のファイルを全部選択して[開く]をクリックする。
③ 上ツールバー 「現在のレイヤーにexcellonドリル…」をクリックする。
拡張子.drlのファイルを選択して[開く]をクリックする。
④ ガーバーデータ,ドリルデータを確認する。
GerbView右ペインの「レイヤー」タブの表示選択チェックボックスを操作して,
各レイヤーのガーバーデータを個別表示し基板レイアウトと正しく一致しているか
確認する。

⑤ ガーバーデータを保存したフォルダを開き,次のようにファイルの拡張子を変更する。
GerberPanelizerは使用するガーバーデータファイルの拡張子が決まっており,
KiCadが出力した.drl(ドリルデータ)と.gm1(外形データ)を識別しない。
GerberPanelizer用の拡張子に変更する必要がある。
(a) Gerber_data.drl → Gerber_data.txt
(b) Gerber_data-Edge_Cuts.gm1 → Gerber_data-Edge_Cuts.gko
Gerber_data.drl → .txt
Gerber_data-B_Cu.gbl
Gerber_data-B_Mask.gbs
Gerber_data-B_SilkS.gbo
Gerber_data-Edge_Cuts.gm1 → .gko
Gerber_data-F_Cu.gtl
Gerber_data-F_Mask.gts
Gerber_data-F_SilkS.gto
面付け
① GerberPanelizer.exeを起動する。
② メニューバー「Files」→「New」と進む。
③ 面付け方眼が表示される。デフォルトのサイズは100mm☓100mm。
サイズを変更する場合はメニューバー「Panel Properties」をクリックして
表示されるダイアログでX,Yサイズの値を変更する。
ここではデフォルトの100☓100サイズで面付けを行う。
④ 単体基板の製造データを収容している tutorial1-gerber フォルダを
面付け方眼にドラッグ・アンド・ドロップする。
⑤ 単体基板の外形が現れるのでドラッグして移動させる。
⑥ このとき右ペインのX,Y欄には基板外形の左下角の座標が表示される。

⑦ 面付け方眼の上で右クリックして「Add Instance 」→「…tutorial1-gerber」と
進む。
⑧ 単体基板外形が現れるので先に配置した基板外形と2mmの間隔で並べる。
(面付け方眼の1目盛==1mm)この間隔が基板を切り分けるためのスリットに
なる。
⑨ ⑦~⑧を繰り返して単体基板をタテ・ヨコに並べる。
ここでは,100mm☓100mmサイズに収まるよう3行3列で面付けする。

⑩ 単体基板間のスリットの中央付近にマウスポインタをあわせ右クリックし
表示されるメニューの「Add Breaktab」をクリックする。
⑪ 単体基板を連結する「ブレークタブ」が設けられます。ブレークタブは
ドラッグでスリットに沿って移動させることができる。

⑫ すべての単体基板が連結されるようにブレークタブを配置する。
⑬ ブレークタブには「MouseBites」という単体基板を切り離しやすくする
「ミシン目」が付いている。「Panel Properties」で「MouseBites」を生成するか
しないかを選択することができる。
以下が面付けの作成例である。作成過程で気付いた点を記載する。
GerberPanelizerによる面付けでワークサイズ 500mm x 500mmの基板に56枚のmicro:bitアダプタ基板が面付けできた。

基板ワークサイズ 500mm x 500mm 面付け 表面

基板ワークサイズ 500mm x 500mm 面付け 裏面

基板ワークサイズを拡大すると、横方向のミシン目が表示していなかった。GerberPanelizerによる面付け画面でミシン目部分の赤表示はエラーになっていた。

ミシン目の生成に基板のすき間を2mm確保する必要があり、横方向のすき間が0.5mm程度足りなかったことがわかった。座標をやり直して、基板間のすき間を2mm確保した。
Garber | Tab(横) | Tab(縦) | ||||
X | Y | X | Y | X | Y | |
1 | 3 | 440 | – | 466 | – | 439 |
2 | 74 | 384.5 | 73 | 410.5 | 38 | 383.5 |
3 | 145 | 329 | 144 | 355 | 109 | 328 |
4 | 216 | 273.5 | 215 | 299.5 | 180 | 272.5 |
5 | 287 | 218 | 286 | 244 | 251 | 217 |
6 | 358 | 162.5 | 357 | 188.5 | 322 | 161.5 |
7 | 429 | 107 | 428 | 133 | 393 | 106 |
8 | – | 51.5 | – | 77.5 | 464 | – |
GerberPanelizerによる面付け画面でミシン目部分の赤表示は無くなった。

基板ワークサイズを拡大すると、全てのミシン目が表示している。

4.製造データ出力
① デスクトップにフォルダ tutorial1-3×3-slit を新規作成する。
面付けデータファイルの保存
② メニューバー「Files」→「Save As」と進み tutorial1-3×3-slit
フォルダ配下にファイル名 tutorial1-3×3.gerberset で保存する。
製造データ出力
③ メニューバー「File」→「Export Merged Gerbers」と進む。
④ 「フォルダー参照」ダイアログが開くので tutorial1-3×3-slitを選択する。
⑤ 「OK」ボタンをクリックしてガーバーデータファイルを生成する。

⑥ ガーバーデータファイルの生成が終わると,面付け基板のTop面と
Bottom面の画像が表示される。

⑦ tutorial1-3×3-slitフォルダを開くと combined.* ファイルと
png画像ファイルが生成されているのが確認できる。

5.製造データ確認
① tutorial1-3×3-slit フォルダ配下の combined.* ファイル
(上図T15-11の赤枠で囲んだファイル)を zip に固め基板発注用ファイル
combined.zip を生成する。
② FusionPCB日本語サイト https://www.fusionpcb.jp/ にアクセスする。

③ 発注ページを開きzipに固めた製造データファイルをアップロードする。

④ ガーバービューアーを開く。

⑤ Top面とBottom面を確認する。
各面ともデータファイルを一つずつ表示して異常がないか確認する。

⑥ 確認OKならば基板諸元を決めて基板製造発注を行うことができる。
以下に製造データ確認時の気付いた点を記載する。
Fusion PCBのホームページで作成したガーバーデータが適切か確認した。しかし、「ガーバーファイルを追加」で読み込むことが出来なかった。原因は、作成したZipファイルのサイズが30.7MBあり、20MBの読込制限にかかっていた。

そのため、基板の枚数を56枚から35枚に削減してガーバーデータを再生成した。ガーバーデータのZipファイルのサイズが20MB以下(19.2MB)になった。

基板ワークサイズ 500mm x 500mm 面付け 表面

基板ワークサイズ 500mm x 500mm 面付け 裏面

Fusion PCBのホームページで作成したガーバーデータが読み込むことが出来た。

ガーバービューアを選択した。しかし、タイムアウトが発生して読み込めなかった。

面付けしたデータではなく、1枚だけのデータであればFusion PCBのGerber Viewerで作成したガーバーデータが表示できた。元のガーバーデータは問題なさそうである。面付け方法が合っているか再度確認する。


GerberPanelizerによる面付けで基板の枚数を2枚→10枚→20枚→30枚と面付けの基板の枚数を増やしていき、どの枚数まで表示できるかを試したところ、最終的にはタイムアウトが発生して読み込めなかった35枚でも全て表示出来るようになった。
ただ、問題として今度はフロントシルクが表示されなくなった。
基板ワークサイズ 500mm x 500mm 面付け 表面

基板ワークサイズ 500mm x 500mm 面付け 裏面

基板の裏面は問題なく表示された。シルクプリントもミシン目も問題なし。

ただ、表面はシルクプリントが表示されなくなっている。

Gerber Viewerで以下の様に基板のレジスト色や表面処理を変更して完成状態を確認することが出来る。


Gerber Viewerで表面のシルクプリントが表示されなくなった不具合原因は、基板単体のガーバーデータが何らかの原因で壊れていた。そのため、GerberPanelizerによる面付けのデータをすべて破棄して再度製作し直した。

すると、表面のシルクプリントも表示されるようになった。


Fusion PCB基板発注手順
基板製造からFusion PCBのガーバーデータ読み込みまでが出来るようになったので、実際に発注してみる。
① 「3-5.製造データ確認」の方法で基板発注用ファイル combined.zip を生成する。
② Fusion PCBのプリント基板・製造サービスの以下サイトに接続する。
③ 発注ページを開きzipに固めた製造データファイルをアップロードする。

④ ガーバービューアーを開く。
⑤ Top面とBottom面を確認する。
各面ともデータファイルを一つずつ表示して異常がないか確認する。
表面

裏面

⑥ 発注する基板の内容を入力する。
基板の寸法は大きいと金額が高くなるため、230*180mmで9枚基板が取れる寸法にした。
材質 : FR-4 TG130
層数 : 二層
寸法 : 230 * 180 mm
製造枚数 : 15枚
異種面付けの種類 : 1
板厚 : 1.60 mm
レジスト色 : 青
基板の表面処理 : HASL(有鉛半田レベラー)
最小ソルダレジストダムの幅 : 0.4mm
銅箔厚 : 1oz.
最小穴径 : 0.3mm
最小パターン幅/パターン間隔 : 6/6mil
端面スルーホール : なし
インピーダンス制御 : なし
実装サービス : なし
メタルマスクサービス : なし
⑦ 入力が完了したら、「カートに追加」を選択する。
ショッピングカートに発注内容が保存される。
⑧ Fusion PCBのプリント基板・製造サービスのサイト右上のカートにポインタを合わせて「お支払いに進む」を選択して発注を完了させる。
クレジットカードで支払いが可能。
⑨ 送料を含めてトータルでかかった金額は¥17,000程度であった。届くまでの日数は2週間程度。出来上がりの基板は以下でシルクの印刷も問題なく出来は良かった。
